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ラムネ瓶の歴史と開け方──体験する飲みものとしての魅力

ずしりと重たくも、ビー玉のカラコロと軽い音が心地よいラムネ瓶。透明なガラスと冷たいラムネが、日本の蒸し暑い夏を涼しく感じさせる。

ビー玉を押して栓を開けるときのわずかな緊張が、子どものころの記憶として残っている人も多いだろう。時には失敗して、溢れるラムネを慌てて口に運んだり。飲み終わったら指を突っ込んで、なんとかビー玉を取ろうとしたり。

本記事では、ラムネ瓶の歴史や正しい開け方について紹介しながら、現代に生きる我々との関係性を考えていく。



第1章:ラムネ瓶の歴史──明治のガラス瓶から続く物語

日本に初めてラムネが伝わったのは、黒船来航の年、1853年。コルク瓶の「レモネード」として、ペリーの黒船に積まれていたのだ。

しかし、当時のコルク瓶は瓶底がなく、自立不可能の「キュウリ瓶」だった。あえて瓶底をなくし、横に寝かせることでコルクを湿らせ、レモネードの炭酸ガスを抜けにくくする寸法だ。

その後、生産性の向上を目指し、逆さにするだけで栓をできる「ビー玉栓のラムネ瓶」がイギリスで発案された。発案者のハイラム・コッド氏の名前を取り、『コッド瓶』と名付けられた。(コッド瓶の発案は1843年とする説もある)

コッド瓶が日本へ輸入されたのは、黒船来航から34年後の1887年。前年にコレラが流行し、「コレラの予防には炭酸が効果的」という俗説が広がっていたため、コッド瓶のラムネは急速に売れ行きを伸ばした。

当初のコッド瓶はイギリスからの輸入品を使用していたが、大阪のガラス業者が独自のコッド瓶の製作に成功したことを皮切りに、国内製造品も増加した。

しかし、コッド瓶が日本を制すると思われたのもつかの間、1892年にはアメリカで発案された「王冠栓」に取って代わられてしまう。

王冠栓のサイダー。コッド瓶よりも安く、蓋も開けやすいため、大手メーカーは王冠栓の生産へと乗り換えた

王冠栓に乗り換える資金力を持たない零細メーカーは、コッド瓶のラムネの生産を継続した。そして1953年ごろにピークを迎える。コッド瓶は再利用が可能で、王冠栓のような金属資材も不要。製造方法も単純である上に、原材料も少ない。戦後の物資が少ない日本において、コッド瓶のラムネは諸費用を抑えながら生産を続けることができたのだ。

加えて、1950年代は各家庭に冷蔵庫がなかった時代。駄菓子屋や飲料販売店で冷たいラムネを飲む喜びは、いかほどのものであっただろうか。売れ行きは伸びに伸び、国内の炭酸飲料の半数近くがコッド瓶のラムネとなった。

1970年前後は、オレンジジュースやサイダーも人気を博していたが、その価格は35~45円と少しお高め。一方コッド瓶のラムネは25円、さらに飲み終わった後の瓶を返せば10円が払い戻された。まさに子どもたちの味方の飲み物だったのだろう。

ペットボトルなどのボトル容器の登場により、昔懐かしいオールガラス製のラムネ瓶は徐々に姿を消していった。1989年には国内での生産を打ち切り、台湾の会社に製造を委託したが、それも1996年を最後に生産が終了した。現在我々が目にするラムネ瓶は、プラスチックキャップなどを使用しているが、やはりペットボトルやアルミ缶とは一線を画す存在感を放っている。



第2章:ラムネ瓶とビー玉

ラムネ瓶の魅力と言えば、その透き通った涼し気な見た目と、カラコロと優しいビー玉の音だ。上から強く押すとビー玉が落ち、炭酸が勢いを増していく様子にも期待が高まる。

しかし、なかなか上手く開けられず飲み口から噴き出してしまい、かなりの量をこぼしてしまうことも多々あるだろう。この夏もラムネを楽しみたい人たちに向けて、正しい開け方とビー玉の取り出し方を紹介しよう。


ラムネ瓶の正しい開け方

ラムネ瓶の噴きこぼれない開け方は、至ってシンプルだ。今回はハタ鉱泉株式会社さんによる解説動画を参考にした。

まずはキャップを開け、飲み口のラベルを外す。さらにラベルからT字型の玉押しを取り外す。

次に玉押しを飲み口に当てて、ぐっと押し込む。
ポイントは手のひらの中央で押し込むこと。親指だけでは押し込みづらい。
どうしても押し込めない場合は、タオルを飲み口と手のひらの間に挟むこと。トンカチなどの工具を使うのは絶対にNGだ。

押し込んだら、炭酸ガスが落ち着くまで5~6秒ほど強く押さえる。ガスが落ち着いたら玉押しを引き抜く。

できれば机の上など、平坦な場所で開けるのがおすすめだ。手に持った状態では、垂直に力が入らず噴きこぼれる可能性が高くなる。

ラムネを開けた記憶は、優しい人に甘えた記憶でもある。家では父や母に開けてもらい、外では開けるのが上手な友達に皆でこぞってお願いしていた。誰かに開けてもらったラムネは、なぜか自分で開けたときよりも美味しく感じたものだった。



ラムネ瓶からビー玉を取り出す方法

ビー玉の取り出し方も本当にシンプルだ。飲み口のキャップを時計回りに回すだけ。

しかし、この方法が使えるのは「スクリュー栓タイプ」の瓶だけだ。「打ち込み栓タイプ」の場合は、ビー玉を取り出すことはできない。前者はキャップ部分が逆ネジ式になっているため、回せば外れる。後者は瓶にはめ込んでいるため、回しても引っ張っても外せない。

小さい頃のおぼろげな記憶だが、キャップを外さずともビー玉を取り出せた人がいた気がする。あの人はどうやってこの狭い飲み口から、つるつると滑るビー玉を取り出していたのだろうか。



「飲む体験」としてのラムネ瓶

大人になってもラムネ瓶を開けるときに緊張してしまう人はいるだろう。噴きこぼれやしないかと、おっかなびっくり腰が引けてしまいがちだ。とは言え、過剰に失敗を恐れる必要はないだろう。上手に開けられたことよりも、失敗して大量にこぼしてしまったことの方が、記憶に残りやすいものだ。

ラムネ瓶は独特の開けづらさに加えて、飲み終わった後の瓶の処分が面倒だったり、瓶ゆえに持ち運んで飲むには重かったり、一度開けたら蓋ができなかったりもするが、その不自由さがまた良いのだ。きれいで涼しげで不便な瓶だからこそ、軽くて便利なペットボトルやアルミ缶に取って代わられることのない存在なのだろう。瓶の中で揺れるビー玉も、見つめるだけで手に取れないからこそ、その美しさが増すのかもしれない。

ラムネ瓶を手にしたとき、我々は皆同じ感覚を味わっている。ラムネ瓶を開け、飲み終えて捨てるまで、不便で不自由な時間に縛られながら、いつかの夏を思い出しているだろう。


◇参考文献
・ハタ鉱泉株式HP『ラムネの歴史』
https://www.hata-kosen.co.jp/pages/57/
・一般社団法人 全国清涼飲料連合会『FAQ 清涼飲料水のQ&A』
https://j-sda.or.jp/learning/qa/qa07/qa09.php
・由水常雄 『ガラスの話』新潮社 1983年
https://dl.ndl.go.jp/pid/12749762
・『平凡社大百科事典 15』平凡社 1985年

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